2019/06/13 10:09
動物の体内の状態は、ホメオスタシス(恒常性維持機能)と呼ばれる生理作用によって、常に一定の狭い範囲内しか変動しないようにコントロールされています。
たとえば、ヒトの血液・リンパ液・組織液や細胞液など体液のpHは、正常値がpH7.35~7.45とされていて、これより低下するとアシドーシス(酸血症)、上昇するとアルカローシスと呼ばれる病気になります。
体液のpHに正常値があるように、尿のpHにも正常値があるのは当然のことだ。それは、pH6付近だとか、pH6.2~6.4くらいだとかなどと言われているようです。
しかし、尿のpHにも正常値があると考えるのは大間違いです。
すなわち、大正時代の医学専門書(「内科診療の実際」、南山堂)に、体液が酸性になると尿も酸性になると書かれていて、昔は尿が体液の一種だという間違った概念があったようです。
しかし、尿は体液でなく、体内に溜まった代謝産物などの不要物や有害物を体外へ捨てるための廃液です。だから、動物病院に必要ない廃液には恒常性維持機能が働かないのは当然です。
それ故、尿のpHには正常値がなく、健康で正常な動物の尿はpH5~8くらいの広い範囲内で常に上昇・下降を繰り返しているのが普通の姿です。
したがって、正常値なんてものがあるわけないのです。
ただし、健常なヒトや犬や猫の尿はpH6.4付近になることが多く、あたかも「正常値」らしきように思えなくもありません。どうして、そうなるのか?
専門書に書かれていないので私の勝手な想像にすぎませんが、もしかすると、膀胱内で酸性尿とアルカリ性尿とが混合して化学反応の「中和」現象がおきているのかもしれません。
さらにもう一つ、検査結果が定説の正常値に近いものになる理由として、もしかするとpHチェックの機会(タイミング)も関係しているかもしれません。
すなわち、上の模式図に示すとおり、酸性→アルカリ性→酸性という具合に上下変動を繰り返しているpH変動カーブにおいて、たまたまpHチェックをしたときが変動カーブの谷間(酸性)であったり、変動カーブの山(アルカリ性)であったりするいっぽう、山(アルカリ性)でも谷(酸性)でもなくカーブ途中(中性)でチェックする場合もあるのではなかろうか?
もしも、そうであれば、変動カーブの山や谷でチェックする機会よりも、途中でチェックするタイミングの方が単純計算で2倍多いということになる。
それで、昔から尿のpHの正常値らしきものがあり、正常値は中性~弱酸性などというのが定説になったのではなかろうか?
重要なことなので繰り返します。健常な動物の尿pHが弱酸性の場合が多いのは、ただの中和であり、チェックするタイミングの問題にすぎないのだろうと思われます。
それなのに、昔、権威者の誰かが「正常値あり」と言い出したため、誰も反対できず、異論を唱えられないまま、いつしか正論・常識・定説となってしまったのだろうと思われます。
そんなわけですから、ご愛犬・ご愛猫の尿pHをチェックされたとき、比色判定の結果を見てpHが高いの低いのと一喜一憂なさらないでください。
何故なら、そのpH値はチェックしたときのタイミングで、たまたまそうなっただけのことかもしれないからです。
重要なポイントは、飼い主様の都合が良いときに尿をチェックするのではなく、我が子(犬・猫)が排尿するたびにチェックしてあげることです。
そうやってチェックした結果、排尿のたびにアルカリ性の尿が出ていたら非常事態で、極めて危険な赤信号です。
いつ、キラキラ光る砂粒状のストラバイトが見えてくるか、あるいはストラバイトが尿道に詰まって尿が出なくなるか、今夜か明日か、もはや発症寸前かもしれません。
でも、怖がらないでください。アルカリ性の尿が続くときはご愛犬やご愛猫に運動させれば良いのです。
運動によって作られた乳酸が腎臓を通り、尿が酸性になるとストラバイトの結晶は溶けて消えます。